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札幌地方裁判所 昭和63年(行ウ)11号 判決

札幌市南区川沿五条三丁目四番二八号

原告

比田勝孝昭

右訴訟代理人弁護士

廣川清英

右同

田中燈一

札幌市豊平区月寒東一の五の三の四

被告

札幌南税務署長 相馬衛

右指定代理人

栂村明剛

右同

小林勝明

右同

桂井孝教

右同

松井一晃

右同

折笠久雄

右同

行場孝之

右同

平山法幸

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告に対して昭和六〇年二月二七日付でした、原告の昭和五四年分以降の青色申告の承認の取消処分をを取り消す。

2  被告が、原告に対し、いずれも昭和六〇年三月一二日付でした、原告の昭和五四年分の所得税の更正のうち、総所得金額六一五〇万七一〇二円(納付すべき税額八二四万九六〇〇円)を超える部分及び原告の同年分の重加算税賦課決定を取り消す。

3  被告が、原告に対し、いずれも昭和六〇年三月一二日付でした、原告の昭和五五年の所得税の更正のうち、総所得金額七一三七万九一四八円(納付すべき税額一三九二万一〇〇〇円)を超える部分並びに原告の同年分の過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定を取り消す。

4  被告が、原告に対し、いずれも昭和六〇年三月一二日付でした、原告の昭和五六年の所得税の更正のうち、総所得金額六六九〇万九五四五円(納付すべき税額九九六万五七〇〇円)を超える部分並びに原告の同年分の過少申告加算税及び重加算税の賦課決定を取り消す。

5  被告が、原告に対し、いずれも昭和六〇年三月一二日付でした、原告の昭和五七年分の所得税の更正のうち、総所得金額六九九八万〇五三四円(納付すべき税額一二四六万三〇〇〇円)を超える部分並びに原告の同年分の過少申告加算税及び重加算税の賦課決定を取り消す。

6  被告が、原告に対し、いずれも昭和六〇年三月一二日付でした、原告の昭和五八年の所得税の更正のうち、総所得金額六八三二万九八六八円(納付すべき税額一一二〇万四七〇〇円)を超える部分並びに原告の同年分の過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定を取り消す。

7  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は北全病院の経営及び株式投資等を業とするものである。

2  原告は、昭和五五年三月から同五九年三月にかけて、各々前年分である同五四年から同五八年分の所得税の確定申告として、各青色申告書に別表(一)のとおり、総所得金額及び納付すべき税額を申告した。

3  被告は昭和六〇年二月二七日付で昭和五四年分以降の所得税の青色申告の承認の取消処分をし、更に、同年三月一二日付で別表(二)のとおり同五四年分所得税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分並びに同五五年ないし五八年分所得税の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をし、そのころ右各処分(以下「本件各処分」という。)を原告に通知した。

4  原告は、本件各処分に対し、昭和六〇年三月二八日、被告に異議申立をしたが、右異義申立後三か月が経過しても異議決定がなされなかった。そこで原告は、同じく本件各処分に対し、昭和五九年法律第五号による改正前の国税通則法七五条五項の規定に基づき、同六一年一月二九日付で国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、同六三年五月二四日付で右審査請求はいずれも棄却され、同月三一日、原告にその旨通知がされた。

5  処分の違法

(一) 原告は、昭和三五年以降一貫して株式取引を行ってきており、殊に同五四年四月以降は病院経営よりもむしろ株式取引及び商品先物取引を事業として行ってきているものである。右株式取引は、証券会社九社に及び、売買の回数・取引株数も所得税法施行令二六条二項の要件をはるかに超え、資金的にも従来の蓄積額三億円余りを投資し、かつ、毎年五〇〇〇万円以上の追加投資をしていたから、十分に事業的規模を有していた。また、原告は、医師の資格を有し、北全病院の経営者としての立場にあったものの、右時期以降は診療業務のほとんど全てを他の専門医に任せ、その時間と労力の大半を株式取引及び昭和五七年から始めた商品先物取引に費やし、株式取引等に必要な人的物的設備も備えていた。

したがって、原告が前記各年分になしていた株式取引及び商品先物取引(以下「本件株式取引等」という。)は、営利を目的として反復継続してなされた大規模なものであって、所得税法上の事業に該当するものであるから、これによって発生した損益は通算(所得税法六九条)されるべきである。

(二) また、被告は、原告の事業所得を生じる業務について発生した医師求人等のための支出金及び貸倒損失金を、事業所得の計算に当たり必要経費として算入しなかった。

(三) 原告が本件株式取引等によって被った損失金並びに医師求人等のための支出金及び貸倒損失金は以下のとおりである。

〈1〉 昭和五四年分

株式取引等の損失金 二二六九万一五八一円

医師求人のための支出金額 三五〇〇万円

〈2〉 昭和五五年分

株式取引等の損失金 四九九六万〇七八五円

医師求人のための支出金額 三〇〇〇万円

〈3〉 昭和五六年分

株式取引等の損失金 一億九四四二万三二六三円

〈4〉 昭和五七年分

株式取引等の損失金 一億〇四二五万八三三七円

貸倒損失金 三四一〇万円

〈5〉 昭和五八年分

株式取引等の損失金 四三四六万二四三三円

貸倒損失金 一八〇〇万円

(四) 右損失及び経費を算入すると、いずれの年分も原告が現実に申告した所得金額以下となり、原告には何らの過少申告もないこととなるから、原告には青色申告承認を取り消される理由がなく、また、更正処分を受け加算税の賦課決定処分を受ける理由がないのに、これをした本件各処分は違法である。

6  よって、原告は被告に対し、請求の趣旨記載のとおり本件各処分の取り消しを求める。

二  請求原因に対する被告の認否

請求原因1のうち、原告が株式投資等を業としていることは争い、その余は認める。同2ないし4の各事実は認める。同五(一)のうち、原告のなしていた株式取引の回数・取引株数が所得税法施行令二六条二項の要件をはるかに超えるものであったこと、原告が医師の資格を有し、北全病院の経営者であったこと、原告が昭和五七年ころから商品先物取引を始めたことは認め、その余は不知若しくは争う。同5(二)のうち、被告が貸倒損失金(昭和五七年分三四一〇万円)を事業所得の金額の計算上必要経費として算入することを否認したことは認め、その余は不知若しくは争う。同5(三)のうち、昭和五四年分ないし同五八年分の原告の株式売買等の損益、同五四年分及び同五五年分の医師求人のための支出金、同五七年分及び同五八年分の貸倒損失として記載されている金額はいずれも不知。その余の主張は争う。同5(四)は争う。

三  被告の主張

被告が本件各処分をした理由は以下のとおりである。

1  昭和五四年分

(一) 青色申告承認取消処分

原告は、昭和五四年分の事業所得の計算に当たり、北中薬品商会(以下「北中薬品」という。)からの医薬品の仕入れがないのに、これがあるかのように装って、仕入代金として合計五二五三万四五〇〇円を計上していたが、これは所得税法一五〇条一項三号の青色申告承認の取消事由に該当するから、被告のした本件青色申告承認取消処分は適法である。

(二) 更正処分

前記(一)の処分により、原告に対する同年以降の更正処分は、白色申告者に対する処分となるから、被告は以下のとおりの更正処分をした。

(1) 所得金額 六一五〇万七一〇二円

(2) 仕入金額の否認額加算 五二五三万四五〇〇円

原告は、北中薬品からの医薬品の仕入金額として、合計五二五三万四五〇〇円を計上していた。

しかし、前記(一)のとおり、北中薬品からの右仕入金額は架空計上であるから、これの仕入金額への計上を否認し、所得金額に加算した。

(3) 通信費の否認額加算 一万四九七〇円

原告が、必要経費として計上していた通信費二三二万四六八一円のうち、一万四九七〇円は、原告の家事上の経費である居宅分の電話料であるから、これの必要経費への算入を否認し、所得金額に加算した。

(4) 青色事業専従者給与の否認額加算 八一三万円

原告は、八一三万円を妻である比田勝富(以下「富」という。)の青色事業専従者給与の額として必要経費に計上していた。

しかし、原告は、前記(一)のとおり、昭和五四年以降の青色申告の承認を取り消されたことから、右金額の必要経費への算入を否認し、これを所得金額に加算した。

(5) 青色申告控除の否認額加算 一〇万円

原告は、事業所得の計算に当たり、青色申告控除として一〇万円を控除していた。

しかし、原告は前記(一)のとおり、昭和五四年以降の青色申告の承認を取り消されたことから、右金額の控除を否認して、所得金額に加算した。

(6) 事業専従者控除の容認額 四〇万円

原告の妻である富は、事業専従者と認められるため、事業専従者控除額四〇万円を必要経費に算入し、これを所得金額から減算した。

以上を加減すると、昭和五四年分の原告の所得金額は一億二一八八万六五七二円となる。

(三) 加算税の賦課決定処分 一一六三万七〇〇〇円

被告は、原告が前記(一)のとおり仕入金額を架空計上し、これを必要経費に算入して過少に確定申告をなしていた行為は、国税通則法(以下「通則法」という。)六八条一項の事実の仮装又は隠ぺいに当たると認め、右事実に係る部分の税額に対して重加算税を賦課決定した。

2  昭和五五年分

(一) 更正処分

被告は、原告に対し、以下のとおりの更正処分をした。

(1) 所得金額 七一三七万九一四八円

(2) 売上金額の計上もれ分加算 一五四万一三六〇円

原告が、昭和五五年中に北中薬局との間でした医薬品の交換取引によって、北中薬品から交換差金として受け取った合計一五四万一三六〇円が、売上金額(雑収入金額)として計上もれとなっていたため、右金額を所得金額に加算した。

(3) 仕入金額の否認額加算 五七八三万六〇〇〇円

原告は、北中薬品からの医薬品の仕入金額として、合計五七八三万六〇〇〇円を計上していた。

しかし、右北中薬品からの右仕入れ金額は架空計上であるから、これの仕入金額への計上を否認して、所得金額に加算した。

(4) 仕入金額の計上もれ額減算 二六万五四四〇円

原告が、北中薬品との間でした医薬品の交換取引によって、北中薬品に交換差金として支払った合計二六万五四四〇円が仕入金額として計上もれとなっていたため、右金額を所得金額から減算した。

(5) 租税公課の否認額加算 七四万三七二〇円

原告が、必要経費に算入していた租税公課二五二万七七五〇円のうち、七四万三七二〇円は、原告の家事上の経費である原告の居宅分の固定資産税であるから、右金額の必要経費への算入を否認して、所得金額に加算した。

(6) 水道光熱費の否認額加算 二〇万五〇一八円

原告が、必要経費に算入していた水道光熱費一二八三万九四一四円のうち、二〇万五〇一八円は、原告の家事上の経費である原告の居宅分の電気料及び水道料であるから、右金額の必要経費への算入を否認して、所得金額に加算した。

(7) 通信費の否認額加算 三万二五四〇円

原告が、必要経費に算入していた通信費二〇四万三五四七円のうち、三万二五四〇円は、原告の家事上の経費である居宅分の電話料であるから、右金額の必要経費への算入を否認して所得金額に加算した。

(8) 雑給料の否認額加算 六五万六三一〇円

原告が必要経費に算入していた雑給料三〇八万六三一〇円のうち、六五万六三一〇円は、原告の家事上の経費である原告の居宅分の掃除婦に対する手当であるから、右金額の必要経費への算入を否認して、所得金額に加算した。

(9) 青色事業専従者給与の否認額加算 九四一万六〇〇〇円

原告は、九四一万六〇〇〇円を妻である富の青色事業専従者給与の額として必要経費に算入していた。

しかし、原告は、前記1(一)のとおり、昭和五四年以降の青色申告の承認を取り消されたことから、右金額の必要経費への算入を否認して、所得金額に加算した。

(10) 青色申告控除の否認加算 一〇万円

原告は、事業所得の計算に当たり、青色申告控除として一〇万円を控除していた。

しかし、原告は、前記1(一)のとおり、昭和五四年以降の青色申告の承認を取り消されたことから、右金額の控除を否認して、所得金額に加算した。

(11) 事業専従者控除の認容額 四〇万円

原告の妻である富は、事業専従者と認められるため、事業専従者控除額四〇万円を必要経費に算入し、右金額を所得金額から減算した。

以上を加減すると、昭和五五年分の原告の所得金額は一億四一二四万四六五六円となる。

(二) 加算税の賦課決定処分

(1) 重加算税の賦課決定額 一三二九万九〇〇〇円

被告は、原告が、前記(一)(2)(3)のとおり、仕入金額を架空計上し、これを必要経費に算入して過少に確定申告をなしていた行為等は、通則法六八条一項の事実の仮装又は隠ぺいに当たると認め、右各事実に係る部分の税額に対して重加算税を賦課決定した。

(2) 過少申告加算税の賦課決定額 五万九五〇〇円

被告は、原告が、前記(一)(5)ないし(8)のとおり租税公課等の必要経費を過大に計上することにより所得金額を過少に申告したことについて、通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条一項の規定により、右事実に係る部分の税額について過少申告加算税を賦課決定した。

3  昭和五六年分

(一) 更正処分

被告は、原告に対し、以下のとおりの更正処分をした。

(1) 所得金額 六六九〇万九五四五円

(2) 売上金額の計上もれ分加算 二五三万〇〇七〇円

〈1〉 医薬品の交換差金額の計上もれ 二九万五〇〇〇円

原告が、昭和五六年中に北中薬品との間でした医薬品の交換取引によって、北中薬品から交換差金として受け取った二九万五〇〇〇円(同年一月分)が、売上金額(雑収入金額)として計上もれとなっていたため、右金額を所得金額に加算した。

〈2〉 リベート収入金額の計上もれ 二二二万五〇七〇円

原告は、原告と妻富が同年八月に観光目的でヨーロッパに旅行するに際し、仕入先であるモハン薬品工業株式会社(以下「モハン薬品」という。)から、右旅行の援助金として合計二二三万五〇七〇円を受け取り、右金額を収入金額として計上していなかったから、右金額を所得金額に加算した。

(3) 仕入金額の否認額加算 五三一九万九〇〇〇円

原告は、北中薬品からの医薬品の仕入金額として、合計五三一九万九〇〇〇円を計上していた。

しかし、北中薬品からの右仕入金額は架空計上であるから、右金額の仕入金額への計上を否認し、所得金額に加算した。

(4) 仕入金額の計上もれ額減算 一三二万二五八〇円

原告が、北中薬品との間でした医薬品の交換取引によって、北中薬品に交換差金として支払った合計一三二万二五八〇円が仕入金額として計上もれとなっていたため、右金額を所得金額から減算した。

(5) 租税公課の否認額加算 七一万九九九〇円

原告が、必要経費に算入していた租税公課二七〇万二七六〇円のうち、七一万九九九〇円は、原告の家事上の経費である原告の居宅分の固定資産税であるから、右金額の必要経費への算入を否認して、所得金額に加算した。

(6) 水道光熱費の否認額加算 三七万九九一〇円

原告が必要経費に算入していた水道光熱費一四四二万五九〇二円のうち、三七万九九一〇円は、原告の家事上の経費である原告の居宅分の電気料及び水道料であるから、右金額の必要経費への算入を否認して、所得金額に加算した。

(7) 通信費の否認額加算 三三万三二三〇円

原告が、必要経費に算入していた通信費二三五万九五七三円のうち、三三万三二三〇円は、原告の家事上の経費である原告の居宅分の電話料であるから、右金額の必要経費への算入を否認して、所得金額に加算した。

(8) 雑給料の否認額加算 五〇万八三五〇円

原告が必要経費に算入していた雑給料一七五万三三五〇円のうち、五〇万八三五〇円は、原告の家事上の経費である原告の居宅分の掃除婦に対する手当であるから、右金額の必要経費への算入を否認して、所得金額に加算した。

(9) 雑費の否認額加算 二三四万円

原告が、必要経費に算入していた雑費一五六三万八六三〇円うち、二三四万円は、原告がハワイアンリゾート株式会社のハワイ現地法人の株式を取得するために支出されたものであり、原告の事実上の経費ではないから、右金額の必要経費への算入を否認して、所得金額に加算した。

(10) 青色事業専従者給与の否認額加算 一〇一二万円

原告は、一〇一二万円を妻である富の青色事業専従者給与の額として必要経費に算入していた。

しかし、原告は、前記1(一)のとおり、昭和五四年以降の青色申告の承認を取り消されたことから、右金額の必要経費への算入を否認して、所得金額に加算した。

(11) 青色申告控除の否認額加算 一〇万円

原告は、事業所得の計算に当たり、青色申告控除として一〇万円を控除していた。

しかし、原告は、前記1(一)のとおり、昭和五四年以降の青色申告の承認を取り消されたことから、右金額の控除を否認して、所得金額に加算した。

(12) 事業専従者控除の認容額 四〇万円

原告の妻である富は、事業専従者と認められるため、事業専従者控除額四〇万円を必要経費に算入し、これを所得金額から減算した。

以上を加減すると、昭和五六年分の原告の所得金額は一億三五四一万七五一五円となる。

(二) 加算税の賦課決定処分

(1) 重加算税の賦課決定額 一二二六万四〇〇〇円

被告は、原告が、前記(一)(2)〈1〉、(3)及び(9)のとおり、仕入金額を架空計上し、これを必要経費に算入して過少に確定申告をなしていた等の行為は、通則法六八条一項の事実の仮装又は隠ぺいに当たると認め、右各事実に係る部分の税額に対して重加算税を賦課決定した。

(2) 過少申告加算税の賦課決定額 一四万六〇〇〇円

被告は、原告が、前記(一)(2)〈2〉、(5)ないし(8)のとおり、租税公課等の必要経費を過大に計上することにより所得金額を過少に申告したことについて、通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条一項の規定により、右事実に係る部分の税額について過少申告加算税を賦課決定した。

4  昭和五七年分

(一) 更正処分

被告は、原告に対し、以下のとおりの更正処分をした。

(1) 所得金額 六九九八万〇五三四円

(2) 売上金額の計上もれ分加算 四六七万二三二〇円

〈1〉 医薬品の交換差金額の計上もれ 八三万九五二〇円

原告が、昭和五七年中に北中薬品との間でした医薬品の交換取引によって、北中薬品から交換差金として受け取った合計八三万九五二〇円が、売上金額(雑収入金額)として計上もれとなっていたため、右金額を所得金額に加算した。

〈2〉 リベート収入金額の計上もれ 三八三万二八〇〇円

原告は、妻富と同月五月に、また、富と原告の兄である比田勝一彦とともに同年九月に、それぞれ観光目的でヨーロッパに旅行するに際し、仕入先であるモハン薬品から、右各旅行の援助金として合計三八三万二八〇〇円を受け取り、右金額を収入金額として計上していなかったから、右金額を所得金額に加算した。

(3) 仕入金額の否認額加算 五二六四万二〇〇〇円

原告は、北中薬品からの医薬品の仕入金額として、合計五二六四万二〇〇〇円を計上していた。

しかし、北中薬品からの右仕入金額は架空計上であるから、これの仕入金額への計上を否認し、所得金額に加算した。

(4) 仕入金額の計上もれ額減算 一六万八九〇〇円

原告が、北中薬品との間でした医薬品の交換取引によって、北中薬品に交換差金として支払った合計一六万八九〇〇円が仕入金額として計上もれとなっていたため、右金額を所得金額から減算した。

(5) 租税公課の否認額加算 七三万三四九〇円

原告が、必要経費に算入していた租税公課二七四万七三〇〇円のうち、七三万三四九〇円は、原告の家事上の経費である原告の居宅分の固定資産税であるから、右金額の必要経費への算入を否認して所得金額に加算した。

(6) 水道光熱費の否認額加算 四六万六二二二円

原告が、必要経費に算入していた水道光熱費一四〇三万五〇〇七円のうち、四六万六二二二円は、原告の家事上の経費である原告の居宅分の電気料及び水道料であるから、右金額への必要経費への算入を否認し、所得金額に加算した。

(7) 通信費の否認額加算 三一万〇〇八〇円

原告が、必要経費に算入していた通信費二三九万八五五一円のうち、三一万〇〇八〇円は、原告の家事上の経費である原告の居宅分の電話料であるから、右金額の必要経費への算入を否認して、所得金額に加算した。

(8) 貸倒金の否認額加算 三四一〇万円

原告が、貸倒金として必要経費に算入していた島津良邦に対する貸付金三一一〇万円及び臼杵牧夫に対する貸付金三〇〇万円は、いずれも貸付の事実がないから、右金額の必要経費への算入を否認し、これを所得金額に加算した。

(9) 雑給料の否認額加算 四八万六四五〇円

原告が、必要経費に算入していた雑給料一六五万一二五〇円のうち、四八万六、四五〇円は、原告の家事上の経費である原告の居宅分の掃除婦に対する手当であるから、右金額への必要経費への算入を否認して、所得金額に加算した。

(10) 青色事業専従者給与の否認額加算 九六二万円

原告は、九六二万円を妻である富の青色事業専従者給与の額として必要経費に算入していた。

しかし、原告は、前記1(一)のとおり、昭和五四年以降の青色申告の承認を取り消されたことから、右金額の必要経費への算入を否認して、所得金額に加算した。

(11) 青色申告控除の否認額加算 一〇万円

原告は、事業所得の計算に当たり、青色申告控除として一〇万円を控除していた。

しかし、原告は、前記1(一)のとおり、昭和五四年以降の青色申告の承認を取り消されたことから、右金額の控除を否認して、所得金額に加算した。

(12) 事業専従者控除の認容額 四〇万円

原告の妻である富は、事業専従者と認められるため、事業専従者控除額四〇万円を必要経費に算入し、これを所得金額から減算した。

以上を加減すると、昭和五七年分の原告の所得金額は一億七二五四万二一九六円となる。

(二) 加算税の賦課決定処分

(1) 重加算税の賦課決定額 一九六六万五〇〇〇円

被告は、原告が、前記(一)(2)〈1〉、(3)及び(8)のとおり、仕入金額を架空計上し、これを必要経費に算入して過少に確定申告をしていた等の行為は、通則法六八条一項の事実の仮装又は隠ぺいに当たると認め、右各事実に係る部分の税額に対して重加算税を賦課決定した。

(2) 過少申告加算税の賦課決定額 二一万四五〇〇円

被告は、原告が、前記(一)(2)〈2〉、(5)ないし(7)及び(9)のとおり租税公課等の必要経費を過大に計上することにより所得金額を過少に申告したことについて、通則法六五条四項に規定する正当な理由があると認められないことから、同条一項の規定により、右事実に係る部分の税額について過少申告加算税を賦課決定した。

5  昭和五八年分

(一) 更正処分

被告は、原告に対し、以下のとおりの更正処分をした。

(1) 所得金額 六八三二万九八六八円

(2) 売上金額の計上もれ分加算 一四七万九五六〇円

〈1〉 医薬品の交換差金額の計上もれ 四五万八〇〇〇円

原告が、昭和五八年中に北中薬品との間でした医薬品の交換取引によって、北中薬品から交換差金として受け取った合計四五万八〇〇〇円が、売上金額(雑収入金額)として計上もれとなっていたため、右金額を所得金額に加算した。

〈2〉 リベート収入金額の計上もれ 一〇二万一五六〇円

原告は、妻富と二女の比田勝道子が同年八月に観光目的で中国に旅行するに際し、仕入先であるモハン薬品から、右旅行の援助金として合計一〇二万一五六〇円を受け取り、右金額を収入金額として計上していなかったから、右金額を所得金額に加算した。

(3) 仕入金額の否認額加算 五七六一万円

原告は、北中薬品からの医薬品の仕入金額として、合計五七六一万円を計上していた。

しかし、北中薬品からの右仕入金額は架空計上であるから、右金額の仕入金額への計上を否認し、所得金額に加算した。

(4) 仕入金額の計上もれ額減算 五五万三三〇〇円

原告が、昭和五八年中に北中薬品との間でした医薬品の交換取引によって、北中薬品に交換差金として支払った合計五五万三三〇〇円が仕入金額として計上もれとなっていたため、右金額を所得金額から減算した。

(5) 租税公課の否認額加算 七四万九〇一〇円

原告が、必要経費に算入していた租税公課二六二万九四一〇円のうち、七四万九〇一〇円は、原告の家事上の経費である原告の居宅分の固定資産税であるから、右金額の必要経費への算入を否認して、これを所得金額に加算した。

(6) 水道光熱費の否認額加算 四一万六八三四円

原告が、必要経費に算入していた水道光熱費一三七四万七六八九円のうち、四一万六八三四円は、原告の家事上の経費である原告の居宅分の電気料及び水道料であるから、右金額の必要経費への算入を否認し、所得金額に加算した。

(7) 旅費交通費の否認額加算 五四万九四〇〇円

原告が、有限会社日美に対して旅費交通費として支払った六〇万円のうち、後日原告に返還された五四万九四〇〇円が公表帳簿に記載されていなかったから、右金額の必要経費への算入を否認し、これを所得金額に加算した。

(8) 通信費の否認額加算 一六万八七五〇円

原告が、必要経費に算入していた通信費一九四万九〇八四円のうち、一六万八七五〇円は、原告の家事上の経費である原告の居宅分の電話料であるから、右金額の必要経費への算入を否認して、所得金額に加算した。

(9) 雑給料の否認額加算 五三万三二〇〇円

原告が、必要経費に算入していた雑給料二一二万八二〇〇円のうち、五三万三二〇〇円は、原告の家事上の経費である原告の居宅分の掃除婦に対する手当であるから、右金額の必要経費への算入を否認して、所得金額に加算した。

(10) 青色事業専従者給与の否認額加算 七三二万円

原告は、七三二万円を妻である富の青色事業専従者給与の額として必要経費に算入していた。

しかし、原告は前記1(一)のとおり、昭和五四年以降の青色申告の承認を取り消されたことから、右金額の必要経費への算入を否認して、所得金額に加算した。

(11) 青色申告控除の否認額加算 一〇万円

原告は、事業所得の計算に当たり、青色申告控除として一〇万円を控除していた。

しかし、原告は前記1(一)のとおり、昭和五四年以降の青色申告の承認を取り消されたことから、右金額の控除を否認して、所得金額に加算した。

(12) 事業専従者控除の認容額 四〇万円

原告の妻である富は、事業専従者と認められるため、事業専従者控除額四〇万円を必要経費に算入し、これを所得金額から減算した。

以上を加減すると、昭和五八年分の原告の所得金額は一億三六三〇万三三二二円となる。

(二) 加算税の賦課決定処分

(1) 重加算税の賦課決定額 一三〇二万三〇〇〇円

被告は、原告が、前記(一)(2)〈1〉、(3)及び(7)のとおり、仕入金額を架空計上し、これを必要経費に算入して、過少に確定申告をしていた等の行為は、通則法六八条一項の事実の仮装又は隠ぺいに当たると認め、右確定申告事実に係る部分の税額に対して重加算税を賦課決定した。

(2) 過少申告加算税の賦課決定額 一〇万一〇〇〇円

被告は、原告が、前記(一)(2)〈2〉、(5)、(6)、(8)及び(9)のとおり、租税公課等の必要経費を過大に計上することにより所得金額を過少に申告したことについて、通則法六五条四項に規定する正当な理由があると認められないことから、同条一項の規定により、右事実に係る部分の税額について過少申告加算税を賦課決定した。

6  原告の本件株式取引等の事業性について

原告は、原告のした本件株式取引等による損失は事業所得上生じた損失であると主張するが、原告のした本件株式取引等による所得金額は雑所得である。

(一) 昭和六二年法律第九六号による改正前の所得税法九条一項一一号は、有価証券の譲渡による所得を原則として非課税としつつ、その例外として同号イないしニに掲げる所得を課税対象とする。そして、同号イは、課税対象とする所得を「継続して有価証券を売買することによる所得として政令で定めるもの」と規定し、これを受けた所得税法施行令二六条一項は、「法九条一一号イ(非課税所得)に規定する政令で定める所得は、有価証券の売買を行なう者の最近における有価証券の売買の回数、数量又は金額、その売買についての取引の種類及び資金の調達方法、その売買のための施設その他の状況に照らし、営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得とする」旨の実質的基準を規定し、同条二項は、有価証券の売買を行う者のその年中における株式又は出資の売買の回数が五〇回以上であり、かつ、その売買をした株数又は口数の合計が二〇万株以上であるときは、その他の同条一項に規定する取引に関する状況がどうであるかを問わず、その者の有価証券の売買による所得は、同項の規定に該当する所得とする旨の形式的基準を規定している。

すると、原告の行っていた株式の売買取引は、その売買の回数及び取引株数において、所得税法施行令二六条二項の基準をはるかに超え、その所得の性質が事業所得か雑所得かの区別は別として、課税対象となる。

(二) ところで、所得税法二七条一項は、「事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く)をいう。」と規定し、これを受けた所得税法施行令六三条一号ないし一一号で具体的な事業を列挙し、同条一二号で「前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行なう事業」と規定する。

そして、同号にいう「対価を得て継続的に行なう事業」に該当するか否かは、単に営利性、継続性を有するほか、事業としての社会的客観性を具備することが必要であり、そのためには相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性がなくてはならない。

より具体的には、営利性、有償性、継続性、反復性の有無、自己の危険と計算による企画遂行性の有無、当該取引に費やした精神的、肉体的労力の程度、人的物的設備の有無、資金調達方法、その職業、経歴及び社会的地位、生活状況等の諸点を考慮するほか、当該取引によって相当期間継続して安定した収益を得られる可能性があるか否かを社会通念に照らして検討して決せられる。

(三) そこで、これを本件について検討すると、

(1) 原告が行っていた株式の信用取引は、株式市場の株価の急激な変動を利用して、また、商品の先物取引も、取引市場の相場の急激な変動を利用して、いずれも売買差益を利得する機会を窺うというものであり、所得の発生が偶発的、投機的であって、原告が本件株式取引などによって莫大な損失を計上しているように、経常的な収益性に極めて乏しいこと、

(2) 原告は、本件株式取引を原告の営んでいた北全病院の院長室ないし原告と特殊な関係にあった訴外河野喜美子(以下「河野」という。)の居室を利用し、個人的に行っており、本件株式取引等のための人的、物的な設備を有しないこと、

(3) 原告が本件株式取引等に利用した資金は自己資金の範囲内に限られ、株式の信用取引上の借入のほかに、銀行借入をするなどの積極的な資金調達は認められず、右取引のための必要経費もその売買に直接要した費用のみであって、事業に通常付随する必要経費がないこと、

(4) 原告は、医師及び北全病院の経営者としての社会的地位と職業を有し、本業である病院を経営し、院長としての業務を行い、かつ、診療業務にも従事する傍らにおいて、本件株式取引等を行っており、原告は本件株式取引等に多大な労力を費やすだけの時間的な余裕はなかったこと、

(5) 原告は本件係争年分において、本件株式取引等についての帳簿等を作成したことも、その取引から生じた所得を申告したこともない上、本件株式取引等のほとんどを架空人名義、家族を含む他人名義に分散して行い、右取引によって前記の形式的基準に該当しないように図っており、原告には、本件株式取引等を事業として行う意思も、本件株式取引等による損益を病院経営による損失と損益通算しようとする意思もなかったこと、

(6) 原告及びその家族の生計の資は、もっぱら原告の経営する北全病院から得ていたこと、

の以上の諸事実が存在するから、右諸事実を総合すれば、原告が行っていた本件株式取引等は、継続的、かつ、大規模なものであったことが認められるものの、継続して安定した収益を得られる可能性は極めて乏しいものであって、社会通念上いまだ原告の事業とは認められない。

従って、本件株式取引等によって原告に生じた損失は事業所得の計算上生じたものではなく、雑所得の計算上生じたものであるから、所得税法六九条一項により他の各種所得の金額から控除することができない。

以上のとおりであるから、被告がした本件各処分は適法である。

四  被告の主張に対する認否及び反論

1(一)  被告の主張1(一)のうち、原告が、昭和五四年の事業所得の計算に当たり、北中薬品からの仕入代金として合計五二五三万四五〇〇円を計上したこと、被告が青色申告承認取消処分をしたことは認め、医薬品の仕入れがないのにこれがあるかのように装ったことは否認し、所得税法一五〇条一項三号の青色申告承認の取消事由に該当するから、被告のした本件青色申告承認取消処分は適法であるとの主張は争う。

(二)  同(二)本文のうち、被告が、原告に対し、白色申告者として、被告主張の各処分をしたことは認める。

同(1)は認める。同(2)のうち、原告が北中薬品からの仕入金額として合計五二五三万四五〇〇円を計上したこと、被告が右を架空計上であるとして仕入金額への計上を否認して所得金額に加算したことは認めるが、右仕入金額の計上が架空計上であることは否認する。同(3)ないし(6)は認める。

(三)  同(三)のうち、被告が、同(二)(2)のとおり、原告において、仕入金額を架空計上し、これを必要経費に算入して過少に確定申告をなしていたとして重加算税一一六三万七〇〇〇円を賦課決定したことは認めるが、同(二)(2)が仕入金額の架空計上であることは否認し、原告の行為が通則法六八条一項の事実の仮装又は隠ぺいに当たるとの主張は争う。

2(一)  被告の主張2(一)本文、同(1)及び同(2)は認める。同(3)のうち、原告が北中薬品からの仕入金額として合計五七八三万六〇〇〇円を計上したこと、被告が右を架空計上であるとして仕入金額への計上を否認して所得金額に加算したことは認めるが、右仕入金額の計上が架空計上であることは否認する。同(4)ないし(11)は認める。

(二)  同2(二)(1)のうち、被告が、同(一)(2)(3)のとおり、原告において、仕入金額を架空計上し、これを必要経費に算入して過少に確定申告をなす等していたとして、重加算税一三二九万九〇〇〇円の賦課決定をしたことは認め、同(一)(3)が仕入金額の架空計上であることは否認し、原告の行為が通則法六八条一項の事実の仮装又は隠ぺいに当たるとの主張は争う。同(二)(2)の事実は認める。

3(一)  被告人の主張3(一)の本文及び同(1)は認める。同(2)〈1〉のうち、原告が医薬品の交換差金として二九万五〇〇〇円を受け取り、売上金額として計上しなかったこと、被告が右が売上金額の計上もれであるとして右金額を所得金額に加算したことは認めるが、右金員を売上金額として計上しなかったことが売上金額の計上もれであることは争う。同(2)〈2〉のうち、原告と妻富が観光目的でヨーロッパに旅行したこと、仕入先であるモハン薬品から右旅行の援助金として合計二二三万五〇七〇円を受け取り、収入として計上しなかったこと、被告が右が収入の計上もれであるとして所得金額に加算したことは認めるが、右金員を収入として計上しなかったことが収入の計上もれであることは争う。同(3)のうち、原告が北中薬品からの仕入金額として合計五三一九万九〇〇〇円を計上したこと、被告が右を架空計上であるとして右金額の仕入金額への計上を否認して所得金額に加算したことは認め、右仕入金額の計上が架空計上であったことは否認する。同(4)ないし(12)は認める。

(二)  同3(二)(1)のうち、被告が、原告において、同(一)(2)〈1〉、(3)及び(9)のとおり、仕入金額を架空計上し、これを必要経費に算入して過少に確定申告をなす等していたとして、重加算税一二二六万四〇〇〇円の賦課決定をしたことは認め、同(一)(2)〈1〉、(3)が、仕入金額の架空計上であることは否認し、原告の行為が通則法六八条一項の事実の仮装又は隠ぺいに当たるとの主張は争う。同(二)(2)の事実は認める。

4(一)  被告の主張4(一)本文及び同(1)は認める。同(2)〈1〉のうち、原告が医薬品の交換差金として合計八三万九五二〇円を受け取り、売上金額として計上しなかったこと、被告が右が売上金額の計上もれであるとして右金額を所得金額に加算したことは認めるが、右金員を売上金額として計上しなかったことが売上金額の計上もれであることは争う。同(2)〈2〉のうち、原告が妻富と同年五月に、又、富と原告の兄である比田勝一彦とともに同年九月に、それぞれ観光目的でヨーロッパに旅行するに際し、仕入先であるモハン薬品から右各旅行の援助金として合計三八三万二八〇〇円を受け取り、収入として計上しなかったこと、被告が右金員が収入の計上もれであるとして所得金額に加算したことは認めるが、右金員を収入として計上しなかったことが収入の計上もれであることは争う。同(3)のうち、原告が北中薬品からの仕入金として合計五二六万二〇〇〇円を計上したこと、被告が右を架空計上であるとして右金額の仕入金額への計上を否認して所得金額に加算したことは認め、右仕入金額の計上が架空計上であったことは否認する。同(4)ないし(12)は認める。

(二)  同4(二)(1)のうち、被告が、同(一)(2)〈1〉、(3)及び(8)のとおり、原告において、仕入金額を架空計上し、必要経費に算入して過少に確定申告をなしていた等として、重加算税一九六六万五〇〇〇円の賦課決定をしたことは認め、同(一)(2)〈1〉及び(3)が、それぞれ売上金額の計上もれ、仕入金額の架空計上であることは否認し、原告の行為が通則法六八条一項の事実の仮装又は隠ぺいに当たるとの主張は争う。同(二)(2)の事実は認める。

5(一)  被告の主張5(一)の本文及び同(1)は認める。同(2)〈1〉のうち、原告が、昭和五八年中に、北中薬品との間でなしていた医薬品の交換差金として合計四五万八〇〇〇円を受け取り、売上金額として計上しなかったこと、被告が、右が売上金額の計上もれであるとして右金額を所得金額に加算したことは認めるが、右金員を売上金額として計上しなかったことが売上金額の計上もれであることは争う。同(2)〈2〉のうち、原告の妻富と二女の比田勝道子が同年八月観光目的で中国に旅行するに際し、仕入れ先であるモハン薬品から、規範旅行の援助金として合計一〇二万一五六〇円を受け取り、収入として計上しなかったこと、被告が右が収入の計上もれであるとして所得金額に加算したことは認めるが、右金員を収入として計上しなかったことが収入の計上もれであることは争う。同(3)のうち、原告が、北中薬品からの仕入金額として合計五、七六一万円を計上していたこと、被告が右を架空計上であるとして右金額の仕入金額への計上を否認して所得金額に加算したことは認め、右仕入金額の計上が架空計上であったことは否認する。同(4)ないし(12)は認める。

(二)  同5(二)(1)のうち、被告が、同(一)(2)〈1〉、(3)及び(7)のとおり、原告において、仕入金額を架空計上し、必要経費に算入して過少に確定申告をなしていた等として、重加算税一三〇二万三〇〇〇円の賦課決定をしたことは認め、同(一)(2)〈1〉及び(3)が、それぞれ売上金額の計上もれ、仕入金額の架空計上であることは否認し、原告の行為が通則法六八条一項の事実の仮装又は隠ぺいに当たるとの主張は争う。同(二)(2)の事実は認める。

6  本件株式取引等の事業性についての原告の反論

(一) 被告の主張三6(一)の主張については争わない。

(二) 同(二)の「対価を得て継続的に行う事業」の該当性について

対価を得て継続的に行う事業に該当するか否かの判断基準については、租税法律主義の観点から厳格に解されなければならないところ、所得税法施行令六三条一二号の「対価を得て継続的に行う事業」との条文の文言からは、被告の主張する事業としての社会的客観性の具備であるとか相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性という基準は導き出せず、右基準は被告独自の基準の設定であり、これ自体を基準とすることはできない。また、相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性との基準はそれ自体不明確であるうえ、事業の損益の結果をもって事業性を判断するに等しく、判断基準として相当でないし、係争年分において損失を出していることを重要視するべきではない。

(三) また、仮に事業性の判断基準として安定した収益を得られる可能性が必要であるとしても、およそ事業の遂行には収益を得られる反面、損失を被るという危険性を常に内包しており、個々の取引について営利性が不確実であるからといって事業性を否定することはできないし、本件株式取引等は安定した収益を上げうる可能性を十分有する以上、これをもって原告の本件株式取引等の事業性を否定できない。

(四) そして、資金調達の方法及び経費の不発生と事業性の認定とは無関係である。

原告は、昭和五四年以前に株式取引で得た収益三億円余りの自己資金及び信用取引で本件株式取引等をなしていたが、信用取引で本件株式取引等を行う場合日本証券金融株式会社からの借入手続きをしないで市中の銀行借入をすることは通常考えられないうえ、本件株式取引等の実態に即してみれば各種の経費も不要であって、銀行等からの資金調達及び経費がないことをもって事業性を否定しえない。

(五) 原告は、帳簿を作成せず、取引から生じた損益を申告していなかったが、原告が帳簿等を作成せず、損益を申告していなかったのは、北全病院の建物が欠陥建物であり、病院を再築する必要があったことから、当時経営者である原告はもちろんのこと、病院の全職員一丸となって資金蓄積のために刻苦勉励していたため、このような状況下において原告が株式取引等で多額の損失を出したことが各職員に知れることは人心の離反を招き、病院再築に支障を来すと考えて本件株式取引等から生じた損失を申告しなかったのであるし、また、原告が帳簿を作成しなかったのは、本件株式取引等においては、取引のつど売買報告書等の書類が原告に送付され、取引の明細が把握できる上、従来の取引全体の動きを把握するにも取引先各社のコンピューターに入力されているデータを見れば直ちに明らかとなるのであって、帳簿等を作成する必要がなかったことによるのであって、原告は本件株式取引等を事業として行う意思も本件株式取引等による損益を病院経営による損益と通算する意思も有していた。

(六) また、生計の資をどこから得ているのかということと原告の本件株式取引等の事業性とは関係がない。

(七) そして、原告が、本件株式取引等を反復継続して行い、その規模も充分に事業的規模であったことは明らかであるうえ、原告が、証券会社に嘱託医として勤務しながら株式取引の実際に触れた経験を有し、昭和三五年よりある相場経験自体は医師としてのキャリアよりも長く有し、北全病院開設後も一貫して株式取引を行い、ことに昭和五四年以降は病院の決裁業務を行うほか診察業務にはほとんど関与せず、日常のほとんどの労力・時間を株式取引等に費やしてきており、業者との連絡や打合せ、取引の注文、資料の収集、罫線等のグラフの作成を行っていたこと、人的物的設備は、事業性の認定に必ずしも必要ではないが、仮にこれを必要としても、原告が本件株式取引等を行っていた河野の居室においては、河野が原告のスタッフとして証券会社の営業員の接待、電話の取次ぎ、グラフの作成、資料整理等の作業を行っていたほか、北全病院に勤務する高田、小野、佐々木、川口らの事務系職員も必要に応じて原告の指示の下に本件株式取引等のための電話の応対や書類、現金の授受等の作業に従事していたし、河野の居室には、電話を始め、電卓、ファクシミリ、事務用机、大型応接セット、専門雑誌等が入った本棚、商品値動き一覧グラフ等、原告が本件株式取引等を行うために充分な物的設備が存し、河野の居室が同人個人の居室であるとともに原告の事務所であったのであって、原告は本件株式取引等を営むための人的物的設備を有していたことからすれば、原告の行った本件株式取引等は、対価を得て継続的に行う事業に該当するというべきである。

原告は、昭和五九年二月に海外投資研究会を河野の居室において開設し、その際専門家二名が勤務先を退社してまで右海外投資研究会に参加しているが、このことは原告が行ってきた本件株式取引等が専門家の目から見ても事業というに値するものであるとともに、右事業に十分見通しがあったということの証左である。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  原告が北全病院の経営を業としていること及び請求原因一2ないし4の各事実は当事者間に争いがない。

二  本件青色申告承認取消処分の適法性について

1  原告が、昭和五四年分の事業所得の計算に当たり、北中薬品からの医薬品の仕入代金として合計五二五三万四五〇〇円を計上したこと、被告が、右計上を架空計上であるとして本件青色申告取消処分をしたことは当事者間に争いがない。

2  証拠(乙四〇、四二、五七、六一)によれば、原告は、昭和五二年ころから訴外北中一二三(以下「北中」という。)の経営する北中薬品と取引を開始し、同五四年一月ないし二月ころ、北中との間で、現実には医薬品の仕入れをしないのにもかかわらず、北中薬品から医薬品の仕入れがあったものとして、これを北全病院の医薬品の仕入れに計上し、それに基づいて北全病院が北中に支払った代金から手数料一二パーセントを引いた残額を原告に現金で戻す旨の合意をしたこと、右合意に従い、原告が同年三月から同年一二月にかけて北中薬品からの医薬品の仕入代金として合計五二五三万四五〇〇円を計上したことが認められる。

したがって、被告が、右が架空計上であるとし、所得税法一五〇条一項三号に該当することを根拠としてなした本件青色申告承認取消処分は適法である。

三  本件各更正処分の適法性について

1  昭和五四年分の更正処分について

被告の主張1(二)(1)、(3)ないし(6)の各事実及び同(2)のうち、原告が北中薬品からの仕入金額として合計五二五三万四五〇〇円を計上したこと、被告が、右を架空計上であるとして仕入金額への計上を否認して所得金額に加算したことは当事者間に争いがなく、右仕入金額の計上が架空計上であることは、前記二2で認定したとおりであるから、被告が右仕入金額の計上を否認して所得金額に加算したことは適法である。

また、被告の主張1(三)のうち、被告が、原告において、北中薬品からの仕入金額として合計五二五三万四五〇〇円を架空計上し、これを必要経費に算入して過少に確定申告をしていたとして、原告に対し、重加算税一一六三万七〇〇〇円を賦課決定したことは当事者間に争いがなく、右仕入金額の計上が架空計上であることは、右のとおりであるから、これをもって、被告が、原告に対し、通則法六八条一項の事実の仮装又は隠ぺいに該当するとして、右の重加算税を賦課決定したことも適法である。

2  昭和五五年分の更正処分について

被告の主張2(一)本文、同(1)、同(2)、同(4)乃至同(11)の各事実及び同(3)のうち、原告が北中薬品からの仕入金額として合計五七八三万六〇〇〇円を計上したこと、被告が右を架空計上であるとして仕入金額への計上を否認して所得金額に加算したこと並びに被告の主張2(二)(2)の事実は当事者間に争いがない。

原告と北中との間で架空取引の合意が成立したことは前記二2に認定したとおりであり、証拠(乙四〇、四二、五七、六一)によれば、右合意に従い、原告が昭和五五年一月から同年一二月の間に、北中薬品からの医薬品の仕入金額代金として合計五七八三万六〇〇〇円を計上したことが認められるから、被告が右仕入金額の計上を否認して所得金額に加算したことは適法である。

また、被告の主張2(二)(1)のうち、原告において、昭和五五年中に北中薬品との間でした医薬品の交換取引によって、北中薬品から原告が交換差金として受け取った一五四万一三六〇円の売上金額(雑収入金額)を計上しなかったこと、原告が北中薬品からの医薬品の仕入金額として合計五七八三万六〇〇〇円を計上していたところ、被告が架空計上であるとして仕入金額への計上を否認したこと及び右金額をいずれも所得金額に加算したことは当事者間に争いがなく、右の医療品の仕入金額の計上が架空計上であることは前記認定のとおりである。そして、証拠(乙四〇、四二、五三の一、五七、六一)によれば、医薬品の交換は右架空計上と合わせて行われていたこと、右架空計上に際し、原告は、北中薬品の手数料として架空計上額の一二パーセントを控除した額の返戻を受けることになっていたこと、北中薬品から原告への右返戻金は医薬品の交換差益が生じるときはそれと清算のうえ、原告が昭和五五年に北海道拓殖銀行月寒支店に開設した黒田正幸名義の普通預金口座に振り込まれていたこと、その結果、右口座に振り込まれた金額が架空計上額の一二パーセントと一致しない月は医薬品の交換差益が生じた月であり、その差額分に見合う北全病院の北中薬品からの仕入ないし北全病院の北中薬品に対する売上があったものと見ることも可能であること、昭和五五年分中の右 売上に相当する金額(交換差金)が合計一五四万一三六〇円であったことがそれぞれ認められるから、原告の交換差金の計上もれの事実及び仕入れ金額の架空計上の事実を理由として被告がした重加算税の賦課決定処分も適法である。

3  昭和五六年分の更正処分について

(一)  被告の主張3(一)の本文の事実、同(1)の事実、同(2)〈1〉のうち、原告が医薬品の交換差金として二九万五〇〇〇円を受け取り、売上金額として計上しなかったこと、被告が、右が売上金額の計上もれであるとして右金額を所得金額に加算したこと、同(2)〈2〉のうち、原告と妻富が観光目的でヨーロッパに旅行したこと、仕入れ先であるモハン薬品から右旅行の援助金として合計二二三万五〇七〇円を受け取り、収入として計上しなかったこと、被告がこれを収入の計上もれであるとして所得金額に加算したこと、同(3)のうち、原告が北中薬品からの仕入金額として合計五三一九万九〇〇〇円を計上したこと、被告がこれを架空計上であるとして右金額の仕入金額への計上を否認して所得金額に加算したこと及び同(4)ないし(12)の各事実並びに被告の主張3(二)(2)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  原告と北中との間で架空取引の合意が成立したこと、原告と北中薬品は医薬品の交換取引を行い、交換差益が生じるとこれを交換差金として原告が受け取った金額が医薬品の交換による売上と目されることは前記二2及び三2に認定したとおりであり、証拠(乙四〇、四二、五七、六一)によれば、右合意に従い、原告が昭和五五年一月から同年一二月の間に、北中薬品からの医薬品の仕入代金として合計五三一九万九〇〇〇円を計上したことが認められる。

また、原告は、原告と富が前記旅行費用としてモハン薬品から受け取った援助金合計二二三万五〇七〇円が原告の収入であることを争うが、これは、モハン薬品が原告の経営する北全病院への医薬品等の売上業績にかんがみて支払った金員であることが認められる(乙四五)から、収入であることは当然である。

したがって、被告が、医薬品の交換差金を売上として、モハン薬品からの援助金を収入として、それぞれ認定するとともに、架空計上額の必要経費への計上を否認したことは適法である。

(三)  また被告の主張3(二)(1)のうち、被告が、同(一)(2)〈1〉、(3)及び(9)記載のとおり、仕入金額を架空計上し、これを必要経費に算入して過少に確定申告をなす等していたとして、重加算税一二二六万四〇〇〇円の賦課決定をしたこと、原告が交換差金を計上しなかったことは当事者間に争いがなく、同(一)(2)〈1〉、(3)が、それぞれ収入の計上もれ、仕入金額の架空計上であることは前記認定のとおりであり、右原告の行為は通則法六八条一項の事実の仮装又は隠ぺいに当たるから、被告のした重加算税の賦課決定処分は適法である。

4  昭和五七年分の更正処分について

(一)  被告の主張4(一)本文、同(1)、同(2)〈1〉のうち、原告が医薬品の交換差金として合計八三万九五二〇円を受け取り、売上金額として計上しなかったこと、被告が、右が売上金額の計上もれであるとして右金額を所得金額に加算したこと、同(2)〈2〉のうち、原告が妻富と昭和五七年五月に、また、富と原告の兄である比田勝一彦とともに同年九月に、それぞれ観光目的でヨーロッパに旅行するに際し、仕入先であるモハン薬品から右各旅行の援助金として合計三八三万二八〇〇円を受け取り、収入として計上しなかったこと、被告が右金員が収入の計上もれであるとして所得金額に加算したこと、同(3)のうち、原告が北中薬品からの仕入金額として合計五二六四万二〇〇〇円を計上したこと、被告が右を架空計上であるとして右金額の仕入金額への計上を否認して所得金額に加算したこと及び同(4)ないし(12)の各事実並びに被告の主張4(二)(2)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  原告が、北中薬品と医薬品の架空仕入の計上をしていたことは前記3(二)と同様であり、同年中のそれの金額が合計五二六四万二〇〇〇円であることは証拠(乙四〇、四二、五七、六一)から認められ、また、医薬品の交換取引による交換差金が医薬品の売上であること及び原告が富とあるいは兄である比田勝一彦とともに同年中にした旅行の援助金としてモハン薬品から得た金員が収入であることも前記3(二)と同様である。

したがって、被告が医薬品の交換差金を売上として、モハン薬品からの援助金を収入として、それぞれ認定するとともに、架空計上額の必要経費への計上を否認したことは適法である。

(三)  また、被告の主張4(二)(1)のうち、被告が、同(一)(2)〈1〉、(3)及び(8)記載のとおり、原告において、仕入金額を架空計上し、必要経費に算入して過少に確定申告をなしていた等として、重加算税一九六六万五〇〇〇円の賦課決定をしたことは当事者間に争いがなく、同(一)(2)〈1〉及び(3)が、それぞれ売上金額の計上もれ、仕入金額の架空計上であることは前記認定のとおりであって、原告の右各行為は通則法六八条一項の事実の仮装又は隠ぺいに当たるから被告のした重加算税の賦課決定処分は適法である。

5  昭和五八年分の更正処分について

(一)  被告の主張5(一)の本文、同(1)、同(2)〈1〉のうち、原告が昭和五八年中に、北中薬品との間でなしていた医薬品の交換差金として合計四五万八〇〇〇円を受け取り、売上金額として計上しなかったこと、被告が、右が売上金額の計上もれであるとして右金額を所得金額に加算したこと、同(2)〈2〉のうち、原告の妻富と二女の比田勝道子が同年八月観光目的で中国に旅行するに際し、仕入れ先であるモハン薬品から、右旅行の援助金として合計一〇二万一五六〇円を受け取り、収入として計上しなかったこと、被告がこれを収入の計上もれであるとして所得金額に加算したこと、同(3)のうち、原告が、北中薬品からの仕入金額として合計五七六一万円を計上していたこと、被告がこれを架空計上であるとして右金額の仕入金額への計上を否認して所得金額に加算したこと及び同(4)ないし(12)の各事実並びに同(二)(2)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  原告が北中薬品と医薬品の架空仕入の計上をしていたことは前記3(二)と同様であり、同年中のその金額が合計五七六一万円であることが認められ(乙四〇、四二、五七、六一)、医薬品の交換取引による交換差金が医薬品の売上であること及び富が比田勝道子とともに同年中にした旅行の援助金としてモハン薬品から得た金員が収入であることも前記3(二)と同様である。

したがって、被告が、医薬品の交換差金を売上として、モハン薬品からの援助金を収入として、それぞれ認定するとともに、架空計上額の必要経費への計上を否認したことは適法である。

(三)  また、被告の主張5(二)(1)のうち、被告が同(一)(2)〈1〉、(3)及び(7)記載のとおり、原告において、仕入金額を架空計上し、必要経費に算入して過少に確定申告をなしていた等として、重加算税一三〇二万三〇〇〇円の賦課決定をしたことは当事者間に争いがなく、同(一)(2)〈1〉及び(3)が、それぞれ売上金額の計上もれ、仕入金額の架空計上であることは前記認定のとおりであって、原告の右各行為は通則法六八条一項の事実の仮装又は隠ぺいに当たるから、被告のした重加算税の賦課決定処分は適法である。

四  原告は、本件各処分の当時、事業として本件株式取引等をしているから、請求原因5(三)〈1〉ないし〈5〉記載の本件株式取引等による各損失金は所得税法上の事業による損失として、原告の所得と損益通算(所得税法六九条)されるべきであると主張するので、以下検討する。

1  所得税法二七条一項は、「事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。」と規定し、これを受けた所得税法施行令六三条一二号は、同条一号ないし一一号のほか、「対価を得て継続的に行う事業」から得た所得をもって事業所得とする旨規定する。

したがって、原告のした本件株式取引等は、所得税法施行令六三条一号ないし一一号に該当しないから、これが事業所得として損益通算されるか否かは、同条一二号の「対価を得て継続的に行なう事業」に該当するかどうかにかかることになる。

2  ところで、事業所得とは、自己の危険と計算において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生じる所得をいい(最判昭和五六年四月二四日・民集三五巻三号六七二頁)、原告がした本件株式取引等による所得が事業所得といえるかどうかは、具体的には、その営利性・有償生の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算による企画遂行性の有無、当該取引に費やした精神的、肉体的労力の程度、人的物的設備の有無、資金調達方法、その職業、経歴、社会的地位及び生活状況等の諸点のほか、客観的に営利性を有する業務として反復継続して遂行する社会的地位を有するといえるためには、当該業務が営利性を有するものとして相当期間継続しうる性質を有することが必要であるから、当該取引によって相当期間継続して安定した収益を得られる可能性があるものか否かをも考慮し、社会通念に照らして総合的見地から決するのが相当である。

3  以上を前提に、原告のした本件株式取引等の事業性について検討する。

(一)  原告が、医師の資格を有し、北全病院の経営者としての立場にあったこと、原告が本件各処分の対象となっている昭和五四年から同五八年の間にしていた株式売買の回数・取引株数が所得税法施行令二六条二項の定める回数を超えていたこと及び原告が昭和五七年から商品先物取引を始めたことは当事者間に争いがない。

(二)  右の当事者間に争いのない事実に加え、証拠(甲一ないし七、一一、乙一、三二の三の一ないし一三、三八、四二、五六ないし五九、原告本人尋問の結果)によれば、

(1) 原告は、昭和三四年ないし三五年ころ、当時原告が居住していた長崎において株式取引を開始したが、昭和四八年に北全病院を開設し、医師として患者の診察に当たるともにその院長として病院の経営に当たるようになって以後も、同病院の建物の改築あるいは補修の費用やいわゆるロボトミー(前頭葉白質切截術)訴訟の控訴審における対策費、更には右病院に医師を招聘するための費用などに要する費用約一〇億円を捻出するために株式取引による利殖を企図して、医業の傍ら自ら株式取引を行い、殊に、昭和五四年に現場の医療行為を他の医師に委ねて以降、昭和五三年に株式取引により得た二億数千万円の資金及び北中薬品との間の架空取引により得た資金等を追加投資し、信用取引の形態により、億単位で本件株式取引等を行っていたこと、

(2) 原告は、本件株式取引等のため、証券会社の営業員等から提供される情報のほか、関係の業界紙、雑誌、一般書籍等を読んで自ら情報を収集、研究し、取引に当たってはこれらに基づいて概ね自らの判断で売買の指示をすることともに、海外商品の先物取引では市場の時差の関係で市場の動向を聴きつつ取引の指示を出すために深夜まで業者の営業員と電話連絡を取り合うなどしていたこと、

(3) 原告が本件株式取引等を行っていた河野の居室には、電話を始め、電卓、ファクシミリ、事務用机、大型応接セット、専門雑誌等が入った本棚、商品値動き一覧グラフ等、原告が本件株式取引等を行うために必要な設備がされていたこと、

等、本件株式取引等は、北全病院の院長室または河野の居室を利用し、営利を目的として、反復継続的に、しかも多数回にわたり大量に行われたものであったことが認められる。

(三)  しかし、同じく(二)の各証拠によれば、

(1) 原告は昭和四八年一月精神科及び内科の病院として北全病院を開設し、自ら管理者(院長)に就任したが、本件各処分当時、特に支障がない限り毎日病院に出勤し、ベッド数二百数十床、常勤・非常勤の医師数名、看護婦、薬剤師、栄養士その他の職員合計六十数名を擁する大規模の同病院の院長として、病院事業の経営に当たるとともに、その業務全般を統括掌握し、構造設備の安全保持、医師の招聘確保、職員の人事管理、事務・経理等の書類の決裁、支払小切手の振出などの業務に従事し、本件株式取引等の取引は本業である右のような院長としての業務に支障を来さない程度と範囲にとどまっていたこと、

(2) 原告は、北全病院の院長私室や昭和四五年以降男女の仲にあった河野の居宅(月寒グランドハイツ四〇九号室)を本件株式取引等の取引に利用し、北全病院の職員や同病院の外勤職員である河野に本件株式取引等の雑務的な手伝いをさせてはいたものの、右各室には株式取引等の取引施設であることを示す表示などはなく、また、本件株式取引等のために、他に特定の事務所を設けたりしたこともなかったうえ、本件株式取引等のために従業員を特別に雇用したり、専門的知識と経験を有する専門家を雇用したりしたことはなかったこと、

(3) 原告は、本件株式取引等を含む株式取引等(以下同じ)の取引について所得税法二二九条に基づく開業の届出をしていないうえ、株式取引等に関する損益並びに経費等についての帳簿等の作成は一切なく、また、昭和六一年に昭和五九年分及び同六〇年分の確定申告の修正申告及び減税の更正請求として株式取引等による損益を申告する以前に株式取引等による損益を税務申告をしたことがないこと、

(4) 原告及びその家族の生計の資はもっぱら北全病院による事業上の収益(富の専従者給与を含む。)によっており、本件株式取引等の収益はこれに当てられていなかったこと、

(5) 原告の本件株式取引等の主たる資金は、前記認定のとおり、税務申告していない昭和五三年の株式取引による利益や北中薬品との架空取引により得た金員等の隠し所得であり、病院の収益を本件株式取引等の追加資金に当てたことはなく、また、昭和五三年に株式取引により多額の利益を得たとき等にも、その利益を病院のために使用したことも窺われないこと、

の各事実が認められる。

(四)  そうすると、原告は、北全病院の院長としての職を本業とし、同病院の経営、管理に従事し、生計の資をもっぱらその収益によって得るかたわら、前記隠し財産を資金とし、その投機的運用の方法として株式取引等を行っていたものであり、本件株式取引等もその延長線上にあるのであって、原告には、本件株式取引等を事業として行う意思があったとは認め難いし、また、原告は、本件株式取引等のための人的組織を持っておらず、その備えたとする物的設備も、原告の個人的な取引のために必要な物的設備の域を超えず、原告が本件株式取引等のために物的設備や人的組織を有していたとはいえないから、原告のした本件株式取引等は、客観的にも事業としての社会的実体があるとはいえない。

更に、株式の信用取引や商品先物と取引が、株価や相場の間断のない変動を利用して売買差益を稼ごうとするものであることは公知の事実であって、右各取引が極めて投機性が高いものであり、取引委託の手数料や信用供与に対する金利等受託者に支払うべき多額の経費負担を必要とし、その取引を繰り返すことにより相当程度の期間、継続して安定した収益をあげうる可能性が極めて低いから、原告のした本件株式取引等が、営利を目的として反復継続され、しかも多数回にわたり大量に行われたものであったとしても、結局、それは、原告個人の投機的な利殖活動が証券会社等の顧客として大規模に繰り返されていたというにすぎず、社会通念上事業と認めるだけの形態及び実質を有していたとまでは認めることはできない。

したがって、原告のした本件株式取引等は事業とは認められず、原告のこの点に関する主張は採用できない。

五  また、原告は、請求原因5(三)〈1〉及び〈2〉記載の医師求人のための支出金額、〈4〉及び〈5〉記載の貸倒損失金は原告の事業上の必要経費として算入されるべきであったと主張する。

しかしながら、原告が医師求人のために請求原因5(三)〈1〉及び〈2〉記載の金員を支出したこと並びに原告に同〈4〉及び〈5〉記載の貸倒損失金が生じたことを認めるに足りる証拠はない。

この点、同〈4〉記載の貸倒損失金については、原告が、訴外島津良邦(以下「島津」という。)に対して三一一〇万円を、また、訴外臼杵牧夫(以下「臼杵」という。)に対して三〇〇万円を、それぞれ貸し付け、その金員が回収不能となったことを理由とするものと解されるところ、島津に対して、原告が三一一〇万円を貸し付けたとする証拠(乙五〇の二ないし六、六〇)も存するが、右が架空であるとする証拠(乙五〇の一、六三)に照らしてこれを容易に信用することはできないし、臼杵に対する貸付金についても、それに沿う証拠(乙六〇)が存するものの、同証拠によれば、原告の臼杵に対してした金員の貸付は、原告と臼杵との個人的な交誼からしたものであって、原告の事業の遂行上生じたものではないことが認められるから、仮にこの貸付金の回収が不能となったとしても、これを事実上の損失として、事業所得の計算上必要経費の額に算入することはできない。

また、同〈5〉記載の貸倒損失金は商品先物取引業者である訴外ワールド交易株式会社に対する海外商品先物取引のための預け金の回収不能を理由とするものと解されるところ、前記のとおり、原告のした商品先物取引を含む本件株式取引等は事業と認められないから、右預け金の回収不能をもって事業所得の計算上必要経費の額に算入することはできない。

六  以上の次第であって、被告のした本件各処分はいずれも適法であるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大澤巖 裁判官 永井裕之 裁判官 柴田厚司)

別表

(一)

〈省略〉

(二)

〈省略〉

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